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雷と塩辛と

魚屋のおっちゃんの口上にのせられてつい財布を出してしまった我が家には多すぎる烏賊を、半分は昨夜のうちに刺身に造って食べ、残りとゲソは塩辛にし、ただいまちゅぴちゅぴつまんでいる。
片手に芋焼酎、膝上に今月の別冊太陽「内田百間」。

お月様が隠れたら、夜は真っ暗になってしまうという百間先生の間の字は門構えに月だが、悲しいことにMacでは表示されない。
今夜はお月様が隠れているどころか、遠くで先生の大嫌いな雷まで鳴っている。

生誕120年記念の特集は、見たことのある写真や見たことのない写真がたくさんで、頁の順番を無視してあちらこちらを開く。
お馴染みの口をへの字に曲げた先生もいれば、若かりし日に流行の口ひげを生やしてすましている内田栄造もいる。
清子夫人にこひ夫人がいる。
ノラがいなくなった時の尋ね猫広告も大きく載っている。

先生が毎日食べたいものを記してこひ夫人に渡していたという膨大な献立メモ。
右から左へ10~20品目もの食べ物がつらつらと書かれたメモの字は、几帳面ながらどこか子供っぽさを残している。塩辛の文字は見えない。
側近くで暮らす人たちはさぞ大変だったろうと思いつつも、平目お刺身、小鯛蓋附、半ぺん、サラダ、パセリと並んだその文字に、何だかうふうふと嬉しくなった。

開け放った窓の外から、またも雷の震える音。
先生が首をすくめるぞと頁をめくったら、肝をたっぷりまとった塩辛が塗り箸からすべり落ちて、先生の顔の上に鎮座した。


内田百けん―イヤダカラ、イヤダの流儀 (別冊太陽)内田百けん―イヤダカラ、イヤダの流儀 (別冊太陽)
(2008/08)
不明



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