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コミさんごっこ

我が家の転石野郎はストーンズ追いかけ海を越え、今頃カリフォルニアの空の下。
ならばこっちも一人旅としゃれこみましょう。そう、今日は大好きなコミさん(故・田中小実昌)の真似をして、路線バスの旅に出るのだ。コミさん式の旅は、バスが来たら行き先も確かめずに乗る、終点まで行く、以上。
近所のコンビニでお茶を買って表に出ると、ちょうど緑の都営バスがやってくるのが見えた。それでは出発進行。

最初のバスは新宿駅西口行き(宿91)。高円寺陸橋で環七から青梅街道へ。中野天神、鍋屋横丁、中野坂上、成子坂下と進み、新宿駅西口ターミナルに到着。すぐ前の停留所からバスが出発するところだったので、あわてて乗り込む。

乗ったのは王子駅行き(王78)。走り出したと思ったら、今通ってきた青梅街道を逆戻り。あれ、王子ってこっち?普段の移動はほとんど電車なので、都内の地理や道路事情がよくわからん。隣に座ったおじちゃんは十津川警部を読んでいる。十津川警部もたまにはバスに乗るのかしらん。
高円寺陸橋を右へ曲がる。野方、豊玉、羽沢と、環七を行くらしい。車内はぽかぽかと暖かく、いつのまにか眠っていた。

香辛料の香りが鼻をくすぐり目を覚ます。前の座席に鮮やかな青いサリーを身にまとったインドのお方。人の身体は食べ物でできているんだなあ。
外に目をやると、京浜東北線がちらっと見えた。もうすぐ着くかな。どうせ終点まで行くんだから、うつらうつらしていよう。

新宿から1時間15分かけて王子駅に到着。何年か前、飛鳥山にお花見にきて以来。その時はもちろん電車でした。
歩道橋の手すりに止まった2羽の鳩が、仲良くお互いの毛繕いをしている。カメラを向けたらついと離れてしまった。てれるなよ。
通りの向こうに柳小路と名の付いた路地が見えたので、ぶらぶら。飲み屋の屋根上で野良猫が日向ぼっこ。こっちを胡散臭そうな目で見つめる。
チケットショップの目玉商品は洗剤らしい。アタック、ザブ、大特価!
生活の匂い、街の匂い。
駅に戻りかけると浅草雷門行きの停留所が。そういえばコミさんも、池袋から浅草までバスに揺られていたっけと、次のバスはこれに決定。

浅草雷門行き(草64)。堀船、梶原、馴染みのない地名が続く。
尾久駅。駅の表示は OKU STATION だったのに、バスのアナウンスは「おぐ」と濁っていた。新三河島のあたりは焼き肉屋が目に付く。
バスの横を赤いスポーツカーが飛ばしていく。後ろの席のおばちゃんが、見て見て、あの車屋根がないと大騒ぎ。
大関横丁、日本堤、吉原大門とおつな名前が聞こえてきましたよ。浅草に着くころにはすっかりお腹がすいていた。

終点の雷門前でバスを降り、並木の籔へ。木の香りのする樽酒を冷やでやりつつ、天ざるを一枚。衣のさくっとした感触がたまらない。

すっかりいい気持ちで浅草をふらふら。観音様を拝み、西参道からウィンズの脇へ。このあたりにくるとおじちゃんらの平均身長が急に低くなるのは、気のせい?
ひさご通りの豆屋でおやつに炒り豆を買おうと思ったのに、店が見あたらず。なくなったのか酔っぱらって見落としたのか。
それじゃあ梅むらで甘いものでもと5656会館の裏まで足を伸ばすも、こちらは店の外まで人が並んでいて、パス。
引き返して浅草演芸ホールの番組をチェック。昼の主任は権太楼師、夜の主任は市馬師。ちょっとそそられます。
歩き疲れてアンヂェラスで一休み。並木の籔にアンヂェラス、コミさんごっこのはずが池波正太郎ごっこになりつつある。いかんいかん。

松屋前から再びバスに乗る。南千住行き(都42乙)。乙というからには甲、丙もあるのかね。花川戸、今戸、清川、泪橋と、すぐに南千住。
ずいぶん殺風景なところへきたもんだ。日も落ちてきたのでよけいに寂しい。貨物列車がごとごと走る音がやけに響く。線路のあっち側はもっと賑やかなのかもしれないが、なんとなく向こうへ渡らずこっち側で次のバス停を探す。

南千住駅入口から上野松坂屋前行き(上46)。本日2度目の吉原大門から浅草5丁目、4丁目、3丁目、2丁目、1丁目と一つさがり。仏壇屋の並びを眺めながら下谷、上野、松坂屋前で終点。
駅前のヨドバシカメラが取り壊し作業中。秋葉原にデカイのができたから用済みになったのか。
広小路を渡ると、上野鈴本から夜の部の太鼓が聞こえてきた。トリが喬太郎。たい平の代演らしい。当然の如く吸い込まれる。

追い出し太鼓とともに外へ出たのは、午後8時半。今日はおとなしく帰ろうと地下鉄に向かうと、上野公園行きのバス停に小滝橋車庫行きのバスが停まっている。これに乗ればどうにか家までバスで帰れるんじゃないか?こうなったらとことんバスに乗ってやる!

小滝橋車庫行き(上69)。不忍池の弁天堂が闇にぽうっと浮かんで見える。湯島、本郷、伝通院、暗くて外の様子がよくわからない。神田川をわたり江戸川橋、鶴巻町、早稲田と、高田馬場へ近付くにつれて人通りが増え、過ぎるとだんだんと減っていく。

小滝橋から今日初めての関東バス、中野駅行き(宿08)。さすが、関東バス。いつも変わらず運転が荒っぽいねぇ。信号待ちで止まっている時の車体の震動さえも、他のバス会社より激しい気がする。
中野駅から永福町行き京王バス(中71)で、ようやく我が家へ戻ってきたのは午後10時半。

旅費は都営バスの一日乗車券500円+関東バス210円+京王バス200円、計910円でありました。

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