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夢幻泡影

風太郎が生んだ数多くの忍法の中でも最も美しく最も異様なものの一つに、真田の女忍者お由比が放つ忍法「夢幻泡影」がある。

「美しい銀灰の泡は、かぎりなく女陰から盛りあがり、風にとぶ。風のなかにそれはちぎれて、一つずつ子宮のかたちにふくれあがり、幾十幾百となくもつれあい、薄明に蒼い虹をまわしつつ、音もなく野面をながれた。それと黒鍬者が相ふれたとみるまに、彼らはその巨大な泡につつまれ、泡のなかで、首をおりまげ、手足をぎゅっとちぢめてうごかなくなってしまう。まるで、子宮の中の胎児そっくりに。」

屈強な男たちが我先に泡の中へ突き進んでいく。母の胎内へ、原始の海へと帰ろうとする本能をどうることもできないように。
そして胎児のような姿のまま意識を失った男たちは、揺り起こされるや「おぎゃあ」「おぎゃあ」と泣き声をあげ、太い指をちゅうちゅうと無心に吸うのだ。はいはいからよちよちよち歩き、あどけない片言のおしゃべりへと進む数日を過ごした後、ようやく知能、運動機能が回復するもその間の記憶は完全に失われている。漠然とした怖れと安らぎの感覚だけが刻み込まれて。

敵を仕留めるわけでなく、操るわけでもなく、暗くてあたたかい子宮へ戻してしまうこの術にかかりたかったのは、風太郎本人ではなかろうか。
夢のような幻のような泡のような影のような、母性の無限抱擁に抱かれたかったのではなかろうか。


くノ一忍法帖 (角川文庫 緑 356-1)くノ一忍法帖 (角川文庫 緑 356-1)
(1973/11)
山田 風太郎


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