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なんかちょうだい

毎朝、仮面ライダー自転車(V3仕様・補助輪付)にまたがり、颯爽と隣家に乗りつけ、マツモトさん家の日めくりカレンダーをめくるのが、三歳児の頃の日課だった。
ひと仕事終え、あーくたびれた、疲れたときにはやっぱり甘いものが一番よねと、ハーシーのキスチョコに目がいく。あのひとつひとつ銀紙で包まれて、薄っぺらい紙がひょろんと飛び出していて、銀紙をむくと表面がちょっと白っぽくなっている円錐形のチョコレート。マツモトさん家にはいつ行ってもキスチョコが置いてあった。
キスチョコ食べたい。しかしそこは三歳児だってレディー。ギブミーチョコレートなんて直裁的な言葉を口にするのは憚れる。

「なんかちょうだいよ」奥ゆかしくこう切り出す三歳児。
「なんかってなんね」わかってるくせにとぼけてみせるマツモトのおじちゃん。いじわる。だが、これぐらいであきらめるわたしではない。

「なんかちょうだいよ」
「なんかってなんね」
「なんかちょうだいよ」
「なんかってなんね」

延々「なんかちょうだいよ」「なんかってなんね」を続けているとマツモトのおばちゃんが、ほらほらお父さん、チョコレートあげなさいよと助け舟を出してくれる。ようやくお目当てにありついたわたしは、別にチョコレートなんて欲しくないのよこれは正当な労働の報酬なのよと冷静な態度を装うこともなく、ニッコニコと銀紙をむきチョコレートを口にほうりこんだ。

毎日毎日こんなやり取りを繰り返し、わたしは立派な虫歯になった。歯医者でぎゃんぎゃん泣いて大暴れ、看護婦さん4~5人に押さえつけられながら治療を受け、歯医者を出るときには「バカカバチンドン屋!おまえのかあちゃんデベソ!!!」と捨て台詞を残した。後年、その歯医者の息子と小学校で同じクラスになり、しっかりわたしのことを憶えていた歯医者の奥さんに「ゆらりひょんちゃんのおかあさん」と声をかけられて、母はたいへん恥ずかしかったそうだ。


毎朝マツモトさん家のカレンダーをめくっていたことも、おじちゃんと「なんかちょうだいよ」「なんかってなんね」の応酬をしていたことも、歯医者で悪態をついたことも、記憶には一切残っていない。大きくなってから聞いた話なので、全て母の創作だとしてもわからない。


わたしのほうが10年早いぜ。


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